2013年4月20日土曜日

詣、参

「なぁ」
 ピエロットが、唐突に声をかけた。
「もしもの話だ。……もしも、俺がこの班に入らなかったとして、あるいはそもそも反乱軍に加担しなかったとして、こいつに出会わなければさ」
 そう言って、ピエロットは少し息を吐き出して、空を仰いだ。
「ーー出会わなかったとして……その、さ。ランドルフに出会えなかった不幸は、もう二度とランちゃんに巡り会えないって不幸と、どちらがより残酷なんだろうね」
 ごう、と、風が吹いた。
「さぁな。お前の幸不幸は、俺には分からない」
「あはは、賢いお返事」
 空の声で笑って、ピエロットは顔をこちらに向けた。
「なぁ」
 ピエロットはもう一度言った。
「どちらも不幸さ。結局は」
 だけど。
「めぐり逢えて良かった。今日やっと、そう思えたんだ。今更だけど、会えて幸せだったって、そう思ったんだよ」
 らしくもない、センチメンタルな言葉だった。黙って耳を傾けてみたが、しかし彼の話はそれで終わりらしい。
 ランドルフの墓に向かって、ぽん、と、ブーケを投げて、そのまま背を向けて行ってしまった。
「……一言ぐらいかけてやれよ。やっと、会いに来れたんじゃないのか」
 呟いたが、もうピエロットはいない。
 やれやれと放られたブーケを拾い上げて整えて、その途中で一通の手紙が挟んであるのに気がついた。
「……バカなやつ」
 大方、自分の前ではランドルフに話しかけるのが躊躇われただとか、そんなしょうもない見栄か意地だろう。
「封したままじゃ、ランドでも読めっこないのにな」
 ポケットから、ライターを取り出した。手紙の封を切って、墓石の上で点火する。燃えやすい素材を選んでいたらしい、手紙は消し炭すらろくに残さず燃え尽きた。
「お前も、手のかかるバディ持って大変だったな」
 声をかけて、持参したウイスキーのボトルを開けて、墓石に注ぐ。
「上物だ。班のメンツで、お前のために買ってきた。アニアの奴、これが飲めるなら死んで本望だとか不謹慎なこと抜かしてニカに殴られてたぞ」
 そんなたわいない言葉をかけて、空のボトルをしまう。
「ベアさんのところはそろそろ女の子が生まれる。ウーゴさんは相変わらず独り身だ。シャンはアニアに相変わらず振り回されてて、ケイは後輩が増えたから少し真面目になってる。ニカは余計真面目で面白くない。フォルカーはだいぶ班に馴染んで、最近じゃ少し生意気な口も叩くようになった。エンツォは……」
 そこで、思わず一度言葉を切ってしまった。
 ふぅと息をついて、気を変えて話す。
「エンツォは、前よりはマトモになった。お前の名前出しても平気にはなったし、やっと墓参りにも来れるようになった。褒めてやってやれよ」
 知らなかったんだが、と、我知らず言葉が続いた。
「あいつ本当は、お前のことよっぽど好きだったんだな。お前ら、本当にいいバディだったよ」
 ピエロットが自分を失った瞬間を、初めて見た気がしていた。廃人のようになって、ランドルフの名を耳にするたび喉が裂けるほどの叫びをあげた。
 それから随分時間が過ぎたものの、ピエロットは完全にはランドルフの死から立ち直ってはいない。
 おそらく一生の傷なのだろう。
「お前のバディは、俺にとって悪友だ。……お前がいた親友って場所を奪う気はないが、立ち直れるよう手を貸すぐらいは許可してくれよ」
 また一つ風が吹いて、まるでそれがランドルフの返事のように思えた。
「邪魔したな。じゃあ、また」
 簡単に手を振って、自分もランドルフの墓に別れを告げた。

 いつか、ランドルフのことをピエロットと酒の合間に語ってやれるといい。きっと、供養にもなるだろうから。

 柄にもなくそんなことを願って、見上げた空は、ただ青かった。

0 件のコメント:

コメントを投稿