左側から選んで七番目、ラムネの蓋を抜いて軽く回す。
同期に色男の味覚は存外お子ちゃまだと言いふらされ、暫くは視界にいれることさえ躊躇われていた。
陽光に透けた瓶ぞこの青に見惚れていると弟分から声がかかる。今日だってよ。
上ずって引きつった声をあげる副班長の背を叩いた。
ほら、今日からなんだから。
ぶらりと、そいつは現れた。
年季の入った靴に、必要最低限の荷物。パッと見て武器になりそうなものは何一つ所持していないが、生き残ることにかけてはプロなのだろうと、日々積み上げた勘が語る。
そいつはつばの広い帽子をひょいと外して、こちらを見た。
「ランドルフ・ロックハート?」
かちりとかみ合った視線は以外にも躊躇いなく正面から射抜いて、瞳は親父の色をしていた。
頷いて、手を差し出す。
「ランでいい。これからよろしく、青い瞳の旅人さん」
「どうも」
パン、とハイタッチの形でうまく交わされた。
「共通語はとりあえず概ね理解したけど、まだなれないところがあるかもしれない。この班の中で一番学があるのがあんただと聞いたんだ。よろしく頼むよ」
そう言って、彼は銀の髪を一度撫でた。
提げた皮袋を受け取ろうとしてなんなく避けられ、そっと肩を竦める。
「見ての通り、人手が足りてないんだ。俺にできる限りのことはするつもりだが、ま、足りなきゃいってくれ」
学ね、つぶやき二人からしてみれば兄貴分に当たるだろう自分のとしを数え直してふと思い至る。
「そういやそちらさん、お年はいくつ」
「19。今年で成人だけど、入国の時には少しちょろまかしてる」
彼はひらり、と手を振った。
「ところで髪を染めたいんだけど」
へえ、と無感動に声をあげて首が傾いた。
「ん?」
「だから、染料が欲しい」
あお、と、彼は言った。
「頭、青にするからさ」
へえ青。間抜けに復唱して手の内にあったラムネをぐい呑みする。彼の地の色じゃそれもありかもしれない。
「生憎とうちの班はそんなに優遇されてませんでね、色も中身も限られてくるぜ」
言って、親指から薬指まで立てた。
「まあ好みを探すよ。なかったら別の機会に。儲かってからでも遅くない」
そう言って、ぽい、と、年季の入った帽子をゴミ箱に放る。
「で、ラン。何か質問や連絡事項は?」
一度仮設基地の方に首を巡らせて、こきりと鳴らした。
「なら一つ、なんて呼べばいい?」
彼はちょいと首をかしげた。
「名前ねぇ」
ここじゃどれ使ったんだっけ、と、とんでもないことをつぶやく。..
「この班じゃ構わないが、それ、動物つきの前なんかじゃ滅多に口にするもんじゃないぞ」
あんまりな言い草に苦笑して、からに成ったガラスから玉を取り出す。
「名簿の名前、見てもらっていいかな。どれ使ったか忘れたみたいで」
彼は大して悪びれるでもなく頭を下げた。
「どうぞ」
記入欄の1番新しいところをめくって、つられてぎこちなく腰を折った。
「ああ、ピエロット……そうか、この名前か」
ふんふんと頷いて、彼は言った。
「じゃあピエで。なるだけ何回も呼んでよ。忘れないように」
そのしれっとしたつらがなんとはなしに気に入ったもので、思わず口ずさむように舌に乗せた。
「仰せのままに。ピエちゃん」
「ん」
軽く頷いて、それでようやくピエロットは笑った。
と思ったら、疲れでも出たのか、そのまま一気に倒れこむ。
「今日はもう寝るかな……」
小さく呟いて、そのまま腕の中ですぅすぅ寝息を立てた。
「……そっちのケは無いんですけどね」
誰にともなく毒づいて、やれやれと抱え直す。
面倒ないきものがやってきた。キャラバンに向かう途中ほくそ笑んで、現状にため息をついた。
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